アントレプレナーシップ・エデュケーター道場

お知らせ

2006/08/21

マレーニのマザーこと「ジル・ジョーダン」に話を聞く!

 ジル・ジョーダンに話をうかがった。彼女は、今のマレーニを築く草創期から関わってきた「マレーニのマザー」のような存在で、生き字引であると同時に、今なお旺盛にコミュニティ活動や新規事業の立ち上げを通じ、マレーニのユニークさをリードしている。先日のトニーの話も、ジルのインタビュー記録をお読みいただくことで、よりはっきりしてくると思います。インタビューの主たるテーマは、「ジルの足跡をたどりつつ、マレーニが他に秀でているところを探る」です。なお、文中に「コミュニティ」という表現が度々出てきますが、「共同体」と読み替えていただいてよいと思います。しかし、文脈の中で同じコミュニティが地元のとか、地域のという意味で使われているところもあります。
1.ジルの現在の主たる仕事から彼女の専門を探ると?
► 様々なコミュニティ・グループに関わることをしているわ。現在、仕事の中心は、バイオリティックス(Biolytix)という会社のCEOであり、マネージング・ディレクターという業務よ。
► 【なぜ、この会社のCEOというポジションについているのか?という問いかけに対し・・・】人が自分の事業を始めるのを助けたいから。会社やコープ(協同組合)等、の組織の形態は問わないの。どんな事業も立ち上げは苦労するわ。でも共通する問題もあることも事実よ。だから、私は、自分が過去34年にわたって幾つかの新規の事業を立ち上げてきた経験を活かして、「起業のプロフェッショナル(専門家)」を自認し、一緒に協働するスタイルで新しい事業の立ち上げを支援しているの。
2.最初に中心になって立ち上げたメープル・ストリート・コープは、なぜコープ(協同組合)の組織形態をとったのですか?
► コープ(協同組合)という形態の最も優れているところは、よりセルフ・リライアンス(Self-Reliance:独立独行)という点ね。しかも、このコープは、法的にも認められた事業組織であるから、なおさら良かったのよ。
► コープ(協同組合)のセルフ・リライアンス(独立独行)の意義は、見込み客すらよく分からない普通の株式会社形態の事業と比較すると良くわかるわ!つまり、コープが実践する事業は、組合員がそもそも欲した商品やサービスを扱うから、事業開始の時点からそれ以後の運営の面においても組合員が第一の顧客になるわね。つまり、安心でき、安定している仕組。これがセルフ・リライアンス(独立独行)の基本的な意味かしら。
► 筆者注1
 コープは、日本的に考えれば、事業協同組合、企業組合、生活協同組合等、多様な形式があります。マレーニで、ジルが創業メンバーの中心として関わったメープル・ストリート・コープは、生活協同組合とほとんど同じであると思います。もちろんマレーニには、他の組合形態、例えば事業協同組合もあります。組合形態の種類よりもマレーニで重要視されているのが、コープ(Co-operative)が内面に含んでいる精神と人の関わり方にあります。
 そこで、オーストラリアのコープ(Co-operative)の規定を紹介しておきましょう。参照先は、http://www.australia.coop/publish/cat_index_76.php の中にある記事「what is a Co-operative?(コープ【協同組合】って何?)」で、以下はその要約です。
 
「コープは、事業運営形態から言えば、私企業や公企業とは異なり、コープのメンバー・ユーザー(組合員)により所有され、コントロールされている事業です。コープは、農林水産業、コミュニティー・サービス、金融、教育、メディア、レクリエーション、小売業、運輸(パッセンジャー向け)、生活基盤(電気、ガス、電話、水道)等、どの様な業種でも設立できます。そして、先に挙げた私企業や公企業と比較して、民主的で、開放的で、ボランタリーで、コミュニティに根ざすという点で違っています。また、コープは、次に示す協同の価値と原則により成り立つと同時に、活動を通じてそれら価値と原則を更に高める働きを担っています。」
「コープ(協同組合)は、明確な価値と原則に基づく他の形態とは様相を異にする事業です。以下では、1995年に採択された『協同組合のあり方に関する国際協同組合連合会の宣言』を紹介しましょう。
◆定義
 コープ(協同組合)は、共通の経済的、社会的、文化的なニーズや願望を実現するために集まった個々人による自律組織です。この自治組織は、参加する人々が共同で所有し民主的に管理運営する事業体であるということに特徴があります。
◆価値
 コープ(協同組合)は、自助、自己責任、民主主義、平等、公平と団結という考え方に基づいています。創立者の伝統を継承し、協同組合員は、他者(向き合う相手)に対し、正直さ、開放性、社会的責任そして支援するといった倫理的価値を信じます。
◆原則
 コープ(協同組合)の原則は、各コープ(協同組合)がそれぞれのコープが考える価値を実践する際のガイドラインになります。
 第1原則:自発的で、オープンなメンバーシップ
 第2原則:民主主義に基づく組合員によるコントロール
 第3原則:組合員の自己資金の投入(経済的な側面での参加)
 第4原則:(協同組合の)自律と独立
 第5原則:教育、訓練、情報提供
 第6原則:協同組合間の協力
 第7原則:コミュニティ(地域社会)への貢献
► 筆者注2
 では、マレーニでどの様な考え方に基づき、コープ(協同組合)が生まれてきたかを確認してみましょう。情報源は上記注1のURLと同じで、出典は「Case Study No 11 Co-operation Maleny; The co-operative movement in Maleny, Queensland」(執筆者:ジル・ジョーダン。時期:2003年9月)で、以下はその要約です。
◆ジル・ジョーダンのコープに関わってきた経歴
 マレーニ在住33年(2003年時点)で、1978年にマレーニで新概念(New Wave)のコープ(協同組合)の第1号を始めたいと発起し、翌年それを実行に移しました。それ以来、コープ(協同組合)の会員、マネジャー、ワーカー、経理担当者、事務担当者、ディレクターとして関わってきています。
◆ジル・ジョーダンによる新概念(New Wave)とは?
 ジルは、新しい経済観(The New Economic Thinking)を新しい考え方として示しています。新旧の2つの考え方を比較しながらみてみると、次のようになります。
【古い経済観】
 経費を削減することが事業を推進する上の全てであり、そして確実に利益を追求しなければならない。
【新しい経済観】
 環境及び社会費用(そして利益)は、純粋に経済的なそれと同様に、等しく重要なことです。ゆえに、「三位一体のボトムライン」を大切にする必要があります。三位一体のボトムラインとは、事業実践に当って「環境」「経済」「社会」の3つの側面を一緒に考慮するという考え方です。
◆マレーニでの協同組合活動等の動き
 1979年の新概念のコープが創設されて以降、2003年までの間に、新概念に基づくコープ(協同組合)や考え方を同じくする協同組織が「28団体」設立されてきました。1979年以前の設立はというと、幼稚園建設のための協同組合で戦前の1939年まで遡り、さらにそれ以前は1800年代末と1900年代初頭の酪農及び乳製品製造工場になります。あわせて僅か3件です。マレーニでの活動が、1979年以降いかに大きく変化してきたかが窺われます。
 1970年代後半 1件
 1980年代前半 1件
 1980年代後半 4件
 1990年代前半 12件
 1990年代後半 5件
 2000年代前半 5件
 これらの団体の中で有給スタッフとしての雇用を生んでいる団体は17件あり、雇用創出数は129人になります(フルタイムが22人、パートタイムが107人)。また、流通系の団体が8件、サービス系の団体が13件です。
3.ジルの元気の源は?
► そうね、人々がコミュニティ、即ち地域社会の協同活動に、積極的に参加することから生まれてくるの。そのような活動に生き生きと参加している他の人から、元気をもらえる。何と言ったらよいか・・・。地域のために同じ方向を向いて、協同して活動しながら、「気持ちをシェア(共有)」するところから、「自分も!」というパワーが内から生まれてくるといったほうがよいかしら。
► もっと具体的に言うわね。私が関わっている協同組織が成功するとするわね。成功への過程で、関わった人たちのスキル(技術・技能)が向上し、同時に自信に裏打ちされた前向きな意識としてのパワーも増加すると思っているわ。このような人たちが、今度は、他の人たちと共に新しい協同活動を始めるとするわね。これらの人達が、今度は以前の経験を活かしながら、協同する過程で新しいニーズの活動を実践できるようにまた別の人たちと努力する。やはり、この過程を通じ関わった全ての人たちのスキル(技術・技能)が向上し、自信に裏打ちされた前向きな意識がパワーに結びついていくと考えているの。だから、私は、この一連の流れを生み出すきっかけを作ったメンバーの一人であっても、それで終わるのではなく、私も一緒に他の活動に関わる中で自分を磨き、磨かれている。地域全体として協同活動が活性化し、協同活動の活発化が地域社会を元気にする。これは地域社会に生活する個々人が元気になるということと同じじゃないかしら。
► でも、昔(1970年代)は、今とまったく違っていたのよ。メープル・ストリート・コープは、今では、変わるきっかけを生み出した貴重な協同活動となったと言えるわ。メープル・ストリート・コープは、新しい考え方に基づいて生まれたコープだったの。環境、社会、経済の3つの要素を等しく尊重しながら、商品の調達から販売を行う、具体的にはマレーニでは当時手に入らなかった有機食材の流通を担うコープと考えてもらえばよいわ。それ以前は、利益の出ない食材の生産・販売はマレーニでも経済効率に合わないと信じられていたの。でも、そのような考えに(今では古い考えとはっきり言えると思うわ)よる活動の結果、マレーニの人々は経済的に貧困世帯が多かったのね。メープル・ストリート・コープが基本理念においている新しい考え方の結果、地域内で流通が生まれ、富が生まれ増加することを、地元の人たちも理解するようになって下さったわ。
► その後、多くの協同組合や協同組織が生まれ、協同活動が活発化して、マレーニで「自信を持って『なせばなる』と感じる」ような人々が増えてきたのね。マレーニは、このような人々が住む「非常に健康的なコミュニティ」になったわ。
► 元気の源でもあるかもしれないけど、私がマレーニで好きなところは、多様な人々が住んでいることね。多様って言う意味はね、異なる能力や技術・技能を身につけた人が多いということ。協同活動を通して多様な人々が生まれてきたということと、マレーニに魅力を感じ多様な人々が新しく移住してきたからであると思うわ。
4.マレーニが他の同様な環境にある地域と比較してユニークな点は?
► 何処の地域にでもそれぞれユニークなところがあると思うから、マレーニ自体を特別視するようなことは避けなければならないわね。でも、あえて言えば、多くの他の地域は、まだそのユニークなところが顕在化していないようね。
► マレーニがユニークなのは、最初からではないわ。今まで話してきたことからも分かるわね。何十年にもわたってマレーニの人々が、コミュニティの発展に力を注いできたから、今の状態まできたと思うべきね。今まで話したことを別の角度から言うことになるかもしれないけど、一つの問題があり、これが人々が克服したいというニーズだとするわね。人々は協同し、そのニーズが満たされるように自らが努力する。一旦それが、満たされるとそれで終わりではなく、次に新しい問題が見えてきて、人々は新しくニーズを満たすための活動を始める。この繰り返しよ。マレーニに住む人々は、意識的に、次々と新しいプロジェクトを生み出し、実現に向け努力することを続けてきたし、今でも続けているの。小さな問題の発見、克服、新しい問題の発生、克服の繰り返しね。
► 他国を例に取らなくても、オーストラリアの他の地域も多くは、何か問題があると直ぐに行政に頼るという場合が良く見られるわ。マレーニがユニークだとするなら、「自分達の問題の解決に行政に最初から頼らない」という点であると、はっきり言えるわ。今までの30数年の協同活動の経験から言えば、自分たちで最初に問題を克服する活動を始めたほうが、行政も支援しやすいようね。自主的な活動で、継続性がみえるからだと思うけど・・・。私たちの活動は、行政からの支援無しで今まで来たと100%いうことは決してできないの。事実、活動が始まってからその活動を促進するための支援を行政から受けてきたからよ。でも、重要な点は、あくまでも、自分達の問題は自分たちで解消し、継続的にそれを続けることが基本にあり、マレーニのコミュニティは、地域の人々の協同活動を通じ、合意を形成し運営されていることよ。決して、行政にコントロールされているわけではないわ。
► 私一人では決してこのようなコミュニティは築けなかったわ。一人が他の人々を刺激するきっかけを作り、一緒に協同してきたからなの。成功体験の繰り返しを数十年もかかって積み重ねてきた結果ね。他の地域も、住む人々が、自ら考え行動するという姿勢で、はっきりしたニーズを克服するという努力をいとわなければ、それぞれの地域のユニークさを実現できると思うわ。私たちが辿ってきたように。
5.マレーニが抱える問題は?
► 最大の問題は、マレーニの魅力に惹かれて移住して来る人々が増え、その移住してきた新住民の人々が孤立し、知らず知らずのうちにコミュニティが持っていた魅力が失われる危険性ね。幸いなことに、まだ、この問題は顕在化していないわ。
► むしろ、私たのように昔からマレーニに住んでいる者達が、この問題が発生するのを未然に防ぐ努力をしているといった方が適切かしら。まず、地域の新聞を効果的に活用することをしているわ。メープル・ストリート・コープのニューズレター(四半期ごと)や他の媒体も同じように機能しているわ。これらの媒体を通じ伝えることは、「マレーニは、どんなまち(あるいはコミュニティ)か!」ということ。人々が、まず媒体を通じマレーニの在り様を意識的に理解し、徐々にコミュニティ・グループに参加する中で直接の対話を通じ学んでいくのよ。極端な言い方をすれば、旧住民は、コミュニティの魅力を維持発展させるためにも、新住民を教育しなければならないということかしら。例えば、地元スーパーのIGAは、キーホルダーの売上金の1%をコミュニティ・グループの活動を支援している等普通ではなかなか分からないことも含めてね。
6.最後に一言お願いします!
► 私たちが過去30数年にわたって実践してきたことの全ては、「協同する文化を築くこと(Building “Cooperative Culture”)」かしら。今でも、私たちが行うこと全てが、これに通じているわ。

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