アントレプレナーシップ・エデュケーター道場

お知らせ

2007/08/22

マレーニ 2007/8/22

悪夢にうなされて目を覚ます。どんな夢だったかは今では思い出せない。
7時におき、停電が直っているかどうかを確認。依然として停電のまま。
8時頃に出田をベロニカとともに、アカウティング事務所に迎えにいく。
朝食をとった後(軽食:果物と牛乳のみ。グレープフルーツに砂糖をつけ食し、次にリンゴにゴマや豆類をつけて食べ、最後にパパイヤを食べる。美味しく味わえる順序だ。)、早川、加藤、磯野を迎えに行き、その足で、本日の社会体験が始まる。
今日の社会体験は3箇所。
1.Emu Products Producing Farm
2.The Heaven in the Hill
3.The Old Dairy Farm
1.Emu Products Producing Farm
 Emuパイを食べるからね!と言われていたので、てっきりEmu酪農家が、食用に加工食品を付加価値を高めるために作り、売っているものとばかり思っていた。しかし、Emuから抽出するOilを原料にした商品を主としていることが分かった。10時から11時30分の90分で、いろいろな話をうかがった。
 さて、社長のピーターは大変気さくで、誠実な人であった。今抱えている問題と商品の質的な面を包み隠さずわれわれに伝えてくれた。
 話は、我々、特に学生からの自己紹介、そして「なぜ、Emu Farmに来たか?」を一人ずつ説明するところから始まった。ピーターは、私に、学生達の視点を知りたいのと同時に、どの程度、自分が話す英語を学生達が理解することができるかどうかを推し量りたいからだ、と説明した。
 はたして・・・。ほとんどの学生が思いを伝えられない。まざまざとその現実を突きつけられた。といことは、ピーターが話している内容を、まったく理解できないことも容易に理解できた。これはどうやら通訳が必要らしい。今回のマレーニ体験プログラムでは、私の出番はないと思っていたのに・・・。それはさておき、一つ誤解が生んだエピソードを紹介しよう。
 ピーターは、ある学生が自分の思いを英語で伝えることができないとき、他の学生が助けるように促していた。いつも助けていた学生が自己紹介と質問をする番になった。その時、ピーターは、「次は、スポークス・マン」と、その学生を促した。ところが、学生は「スポーツ・マン」と聞き間違えたらしい。その日着ていた服がサッカーに関するものであったためか、てっきりピーターがそれを読んでいったものと誤解したらしい(ちなみに、ピーターは一切日本語を理解しない)。なぜサッカーをしているのか、サッカーをするとお腹がすく、今日この服を着てきたのは寒いからだ、と答えた。
 さすがにピーターもこの回答には驚き、苦笑していた。どうやら順番を変えて、Emuパイを最初に出すことに決めたようだ。OKといって、立ち上がり、キッチンのオーブンに行き、それぞれにEmuパイとBeefパイを皿に盛り、我々に試食させてくれた。焼きたてのパイで、雨が降り続き身体の芯から冷えきっていた我々にとり、正に天の恵みであった。聞き間違いに「感謝!!!」
 Emuパイは、Beefパイに比べ、美味しいものであった。Emu自体の肉がどの程度Beefに比べ美味しいかは分からない。美味しさの理由は、Emuの挽肉に、塩、胡椒、チーズ、トマト、赤ワイン他を混ぜ良く炒めたものを、パイ生地に包んでいるからだ。他の肉以上に美味しく食べることができるように、そのレシピは、Emuの肉の価値を高めるように工夫されていた。
 恐らく、このようにレシピが工夫されている理由は、Emu自体は本当に価値あるものであると、我々(消費者)に分からせるためであろう。こんな美味しい肉自体を売るのではなく、この価値ある鳥「Emu」から抽出された「Oil」にこそ価値があることを示すためであろう。
 さてさて、ピーターは、Emu Products Producing Farmを経営している。既に、Emuを飼育し、肉を売る商売はしていない。あくまでも、Oil関連商品を作るためにEmuを飼育している。Oil及びOil関連製品は、Brisbaneにある加工会社にアウトソーシングしているらしい。いわゆるファブレス会社である。
 そこで、まず、Pure Oilから、商品の説明を始めた。保湿効果がある。それから派生し、ユーカリエキス等を配合した肌荒れの回復に役立つ商品、ナイトクリーム、目じりや目の熊を回復させるアイクリーム等の説明に移った。途中から、日本語のホームページもあり、そこに各種商品の説明が日本語で載っているとの解説を受け、一部プリントアウトしたものをいただいた(クイーンズランド大学の日本人教授が翻訳したものらしい)。商品説明を受けながら、試してみた。
 それから、経営面での話が始まった。肉として販売した場合のEmu一羽当りの値段、脂肪の値段、Pure Oilの値段・・・・・アイ・クリームの値段。アイ・クリームが最も高い価格で販売できるようだ。
 しかし、供給者サイドから見ると、アイ・クリームだけを売りたいのだが、まだまだEmu Oil製品の効果が消費者に理解されておらず、理解を促すためにも多様な商品ラインで販売せざるを得ないのが現状である。したがって、最高に利益率が高いアイ・クリームのみを売った場合の利幅は理想であるが、現実にはそのようになっていない。
 小売価格一覧表を見せてもらった。卸価格は、小売価格の50%だそうだ。日本の会社がEmu Pure Oilに着目し、日本の販売代理店契約を結び販売している。この会社は、サンリッツといい熊本県に本社を置く企業である。だから日本でも手に入る。しかし、価格は大分高いものになっている。
 例えば、この日本の会社が取り扱う製品は、Pure Oilのみのようだ。小売価格は消費税込みで6300円と新聞広告にあった。ピーターが用意した英文パンフレットにある小売価格の約2倍である。卸売価格でピーターは日本に出しているから約6倍になっているようだ。ピーターは、Beef肉でも同じと言っている。
 ピーターは日本語のホームページを用意し、日本向けにネット販売をしている。価格は、英文パンフレットと同じ。でもなかなか販売数は伸びないのだと言う。生産ではなく、市場に問題がある。つまり、Emu Oilの価値をどれだけはっきりと日本の消費者に理解してもらうか!その部分の努力と戦略が足りないと、ピーターは考えている。また、現在販売提携している日本企業は、他のEmu農場と直接取引し、Oilを精製しようとして動き始めているらしい。(鵜飼:コアコンピタンスをハッキリさせ、守り、比較優位を打ちさせるようにするための戦略が必要!)
 さて、ピーターは、1993年からEmuの飼育と事業化することに取り組んできた。既に約15年を経過している。「現在の事業収入と今後の見込み」について学生から質問があった。現状では、さほど大きな売上を上げているわけではない。しかし、今後は、観光ルートに盛り込んでもらう努力をし、バス等で乗りつけ、購入してもらうように働きかけている。加えて、輸出にも力を入れていく。そうすることで利益総額も大きくしていきたい。との回答であった。なお、Emuは歴史的にアボリジニによって飼育されている件数が多いようである。クイーンズランド州内にはピーターの農場以外に4件、オーストラリア全域でも50件程度であると言う。
 ピーターのビジネスモデルを見ると。
自社でEmu飼育(孵化から飼育)→(Ingredient等のレシピ)→精製・製品化のアウトソーシング→自社直接販売(国内外)+海外販売代理店への商品提供
2.The Heaven in the Hill
 午前中から昼過ぎの午後2時までThe Heaven in the Hillを訪問。依然として、強い雨が降り続いている。本当に寒い。
 さて、The Heaven in the Hillは、個人から団体向けロッジ型の宿泊施設とワークショップ施設をもちながら、各種のサービスを提供する会社である。ここの特徴は、地球と身体に優しい運営を基本理念においていることである。この理念にそい、ハードとソフトが作りこまれている。
 例えば、電力は太陽光発電と風力発電で賄われており(我々はコンバーター等、生活を支える背景を学ぶことができた)、水は天水(飲み水は幾重ものフィルターを通して使用。最大で飲料水等に7万ガロン貯めることのできる貯水槽がある。これ以外には山火事発生時の緊急貯水槽が2つ別に設けられている)、散水は洗濯水や洗浄水を活用するなどしている。運営上のサービスメニューから言えば、精神的なセラピーとマッサージのサービスがあり、心を病んだ個人客の要望に応えることができるようになっている。また、団体は、ワークショップに対応できるスペースがあることから、今週ではボーイ・スカウト指導者研修で12人、その後、社交ダンスクラブが31人でダンス研修を行うことが決まっている。
 また、宿泊施設や家屋の内外壁には、鏡やガラスを用いたモザイクが飾り付けられている。このモザイクは、全てオーナー自らが手がけていると言う。古い客車が、ロッジとして転用されており、天井は当時のまま、その他も極力、客車の雰囲気が崩れないように手が施されている。他のロッジについてもモザイクと地元産の木材が所々で使用されており、リラックスできる空間となっている。
 ロッジ群を取り囲む森林は自然林であり、色とりどりのパロット、ワラビ(いずれも野生)が訪れ、来客者を楽しませると言う(この日は残念ながら強い雨で、いずれも見ることは叶わなかった。
 雨の中、外とロッジの中を交互に行き来しつつ約1時間話を聞いた後、野菜スープとライス(インディカ米)をいただく。心底冷え切った状態から回復できた。学生達は、あまり食べないのには驚いた。
3.The Old Dairy Farm
 午後2時過ぎから4時近くまで、The Old Dairy Farmに行く。名前から想像していたのとは異なり、余り広くない(牧場全体の敷地面積:20?ヘクタール)。オーナーであるピーター・スティーブンス(48歳)が、農場の特徴と経営について語ってくれた。
 農場経営は厳しい状態が続いてきた。かつてマレーニ地区で40ほどあった農場は、現在では10件を切るまでになってしまっている。残ったものも土地の広さからいって牛の頭数400頭がせいぜいであり、農場として生き残るため新しい理念に基づく経営が必要となっている。
 1つの方法は、しかも、多くの農場がこの考え方に追従しようとしているのは、肉としてではなく、乳製品を作る経営である。Maleny Dairy Farmはその良い例である。政府より補助金をもらい加工工場を作り販売する。他の多くの小規模農場は、このMaleny Dairy Farmに乳を提供しているという。ピーターは、この方法を選択しなかった。
 別の方法で、ピーターが選択した方法は、農場を維持しつつ農場の環境を楽しみたい観光客向けのロッジを経営することであった。この方法を選択することに伴い、様々なことを考えている。以下ではその考え方のポイントを紹介しよう。
 ちなみに彼の経歴は、約10年年金関係の事務系の仕事、約6年観光産業に従事、約8年調査コンサルティング会社で働き、その後農場を購入して現在で6年目である。様々な職種を経験し、その中で論理的に考えるようになり、農場経営も他とは異なる方法を選択するに至ったのだろう。ちなみに、ピーターは現在が最も充実していると言っている。最も地理的に高い位置で働き、他を見下ろすことができるから、といたジョークが飛び出すほど、充実し、考え実行したことが良い結果になって現れているのだろう。
► 農場の経営資源を活かし、また、経営資源の価値を高め、多角的に事業を展開する。現在、酪農(食肉用)、宿泊(ロッジ)事業、芸術家支援事業、農場環境の保全事業の4つの領域である。それぞれの事業は相互に関連している。
► 短期的に儲けることができるかどうかで農場経営を考えていない。現在48歳であり、年金を取得する年齢になる15年ほど先をみながら経営をしている。
► 従来の方法で酪農を行っても事業収入(利益?)は10年で考えても7万ドル?だが、宿泊事業は年間で4万ドルの事業収入を上げている。農場を40万ドルで取得したが、現在の価値は3倍の120万ドルにまで高まっている。この農場の環境を維持保全するようにすることは、資産価値を高める上で非常に重要なことと考える。酪農からの利益の全額を保全事業に再投資し、宿泊事業からの利益が生活費他に充当される。(Barung Landcareのジョンとの話し合いの中でしったことであるが、土地の価値については社会的な意識の変化が大きく作用しているのではないか?ということである。かつての農場の価値は、一面牧草地であることがよい農場とされていたので、森を持つことはマイナスであった。他方、現在は、観光資源として農場が認められるにいたり、それに伴い自然の姿に戻すことが価値を高めるように作用しているという考え方である。8月27日(月)に隣接地のマカデミアナッツ農場のPacific Plantation側から、森作りの大切さを学んでいる時に、解説者のジョンから教えられた。)
► 土地を保全維持することは重要なことであるが、よりよい牛を育てるためにも、牧草地の管理は重要である。この土地の地下には粘土層(クレー層)がありPH値+4が普通の状態のようだ。そこで、PH値+5~6を維持できるように表土を管理している。
► 食肉用の酪農事業は、ニッチ市場を狙った戦略で、高級食肉(オーストラリア国内向け用)の生産に向け酪農を行っている。放牧し草のみを食べさせるように成育し、18ヶ月までの牛を食用にまわしている。最高級品としては6ヶ月の小牛を出荷している。なお、牛肉が最も美味しいのが夏である。2月から4月がベストであろうか!
► ロッジは、かつての牛乳を搾っていた小屋を宿舎に改造している。
► 牧草地に当地特産のアボガド等を植え、出荷する方法もあるが、当農場はその方法を選択しなかった。アボガド用に機械を買い、育成と収穫、出荷に多くの人を雇うことが必要になる。市場の環境が良い時はいいが、悪くなることもあり、過大な初期投資で身動きが取れなくなることを避ける戦略を採用した。
► 当面は、現在の方法を守り、自分達の生活が維持でき、管理しやすい規模で、資産価値を高める方法を中心に進める。
【学生の質問に答えて】
Q:日本では後継者が不足しているが、こちらではどうか?
A:オーストラリアでも同じことが言える。後継者不足は一般的だ。朝早くから長時間働き、重労働である。私が購入したこの農場は4代に渡ってある一族が所有してきたものが、売りに出されたものである。この農場も後継者がいなくて、私が買った。先にも述べたが、酪農の経験は一切なかった。しかし始めて6年。習熟曲線で段々と理解が深まり仕事もやりやすくなってきた。未経験者でも、やる気があれば何とかなるだろう。
Q:農場の規模を見るとオーストラリアの方が日本より圧倒的に広い。さぞ大きな利益が得られるのだろう?
A:一概にはそうとも言えない。つまり、農場の規模がそのまま1頭当りの利益率の高さに結びつくわけではない。日本では非常に狭い場所で、非常に高額な牛を育てているじゃないか!オーストラリア産の平均的な牛の1KGあたりの売値(農場出荷時)3ドル?程度にしかならない。
Q:オーストラリア牛は美味しいですか?
A:美味しさの定義が国によって違うんじゃないかな?日本人は和牛のさしのはいった肉が好きと聞く、英国人はハイランド地方で育った肉がすきという。その国の食文化に根ざした美味しさがあると考えた方が良いのではないかな?オーストラリア牛を前提に考えれば、飼料ではなく、良い草を食して育った牛が本当に美味しい。肉になる時期によっても美味しさは異なる。夏ですね!

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