アントレプレナーシップ・エデュケーター道場

お知らせ

2007/08/28

マレーニ 2007/8/28

8月28日(火)うれしいことに今日も晴天
 今日は、クリスタル・ウォーターズでパーマカルチャーを中心に学び、午後からはDairy Farmの見学とそこのオーナーとともにバーベキューを楽しんだ。皆既月食(the total eclipse of the moon)を見ることができ、感動と驚きが錯綜する心理状態も経験。
1.クリスタル・ウォーターズの有機農場訪問
2.パン屋さんで自然酵母をつかったパンの生産工程を理解し、ピザを一緒に焼き食す
3.アイリーン宅を訪問し、パーマカルチャーの実際を聞く
4.Dairy Farmを訪問し、搾乳見学。
5.皆既月食を見る。
1.クリスタル・ウォーターズの有機農場訪問 
 今回のコーディネーションを引き受けていただいたベロニカと一緒に、有機農場での作業を見ながら、話し合った。恐らくパーマカルチャーを理解するうえで、非常に重要なポイントと思われる、というより私が単に誤解していただけかもしれないので、導入として記す。
 私から、次のような疑問をベロニカに伝えた。「2年前にパーマカルチャーを実践するある家庭を訪問した時、不思議な感慨を覚えた。それは、今、あそこにあるようにオーストラリアに古来よりある自生の植物以外のものを植えてあったことだ。本当にパーマカルチャーなのか?」
 ベロニカは次のように回答した。「パーマカルチャーの基本的精神は、今ある環境と共生すること、自然のメカニズムを人間生活の中にも取り入れること、今あるものを大切にすることを基本に、持続可能な生活を送り続けること」であって、「その土地に固有の植物で生活することのみをパーマカルチャーと言うわけではない」。すでに、「多くの外来種が入り込み、それが生えてきたのだから、それも環境の一つとして対処するべきね!」
 でも、パーマカルチャーの考えからして、あそこの有機野菜の栽培方法は納得いかないわ!とベロニカがいった。その理由は、自然のメカニズムを取り入れるということは、同じ野菜だけを一列に並べることではない。昨日訪問したSandy Creek Organic Farmは、ローテーションさせていたけれど、それは同じ野菜を大量に作るための手段であって、自然のメカニズムを取り入れるとすると、本来はローテーションをしなくてすむ方法を取るべきである。それは、共棲という考え方!お互いに補完しあう野菜を隣同士で植えると考えた方がいいわね。時には背の高い野菜との共棲もある。
「事後談がある・・・
 訪問した翌日、ベロニカと夕食をとっていたとき、やはりクリスタル・ウォーターズの畑のことに話が及んだ。ベロニカはレスリー(後ででてくるパン屋さん)に、あの野菜の栽培の仕方は可笑しい。パーマカルチャーではなく、有機栽培だ。と問題を投げかけたと言う。レスリーは、その問いかけに対し、彼はパーマカルチャーを必ずしも理解しているとは言い切れない。残念なことに、このクリスタル・ウォーターズに居を構えている人全てがすべて、完璧にパーマカルチャーを実践している人は数少ないと言ってよい。例えばこんな実態がある。クリスタル・ウォーターズのホームページを読み来訪したヨーロッパの人々の中には、理想と実態に乖離がある、理想が実現されてるとは限らない事実をしり、失望して帰っていく人が多いと言う。」
 農場を見ながら、クリスタル・ウォーターズの人々があのような農場を作るのが腑に落ちない様子である。いよいよ、農場で働いている人と話す時間ができた。分かったことを次に書いてみたい。
 ①現在働いている人が、土地の所有者(クリスタル・ウォーターズ)より賃借(リース。年額550ドル)し、クリスタル・ウォーターズ以外の人に販売している。販売方法は、各地の小売店と契約し、そこの指定量を栽培するという方法。一部うれのこりも出たりするが、採算は取れているという。(鵜飼感想:先日訪問したSandy Creek Organic Farmと比較し、規模は小さく、マネジメントはあまり考えられていない様子)
 ②経営的な側面とは異なり、今年は、本当に寒く、霜が降りる状態で、野菜の成長も止まっていた。先週雨が降り、春の訪れを告げるとともに、今週は暖かくなり、ある野菜では1時間に2.5センチメートルも成長することを見ることができるよ。
2.パン屋さんで自然酵母をつかったパンの生産工程を理解し、ピザを一緒に焼き食す
 次に、お昼ご飯のピザを食べる場所で、オーナー兼職人の方(レスリー)より、自然酵母のパンの生産工程を聞き、試技を見せていただき、次にピザを食べさせていただいた。
 ここで分かったこと。
 ①イースト菌は、ビール酵母から由来するもの。大量に早く作る際には有効。でも健康にはあまり良いとは言えないね。対して、自然酵母のパンは、空気中にある酵母の助けを借りて、時間がかかり、大量に作れないが、身体には良い。
 ②ガス釜と石釜では、熱の種類と数がことなる。ガス釜では、基本的には空気を熱し、それでパンを焼く。石釜では、下側の石(レンガ)、空気、上側の石からの放射熱の3種類で焼く。焼き上がりが全く異なる。
 ③自然酵母を利用したパンを4種類ほど毎週作る。木曜日からはじめ、焼き上がりは土曜日の午後2時ごろ。この間、毎日、1~2時間ほどしか眠れない。一回に焼き上げる数は、4種類合計で250個。販売は、製造小売の工房で直販、マーケットに売りに行く、マレーニのCoopで販売するの3通り。
 ④直接販売であれば、一般的に普及しているイースト菌で発酵させたパンと自然酵母のパンの違い(例:押した時の弾力性。自然酵母パンは押しても戻ってこず、むしろ指が中に入る。)を説明できるが、間接販売であるとそれができず、クレームの電話を受けることもある。直接販売のよさは、買い手の食べた感想を聞き、新たなパン作りに活かすことができること。
 ⑤同じ方法で練りこまれたピザ生地で、特性ソース(8時間煮込んだトマトベースのもの)をつけ、チーズを乗せ、石釜で焼く。本当に美味しい。あっという間に、一人一枚分の分量のピザと野菜サラダを完食。
 ⑥学生と日本に持っていったときの市場価格を考えた。2500円くらいではないかと想定。その上で、当地での市場価格を尋ねたところ13ドル程度。一般的なピザは15ドルで売られているという。これって安くない?(2007年8月では、現在Australia$1=100円と考えてみると良いね。)
3.アイリーン宅を訪問し、パーマカルチャーの実際を聞く
 クリスタル・ウォーターズのパーマカルチャー生活を送っている方の中でも唯一自給自足(Self-Sufficient)の生活をしているというアイリーンのお宅を訪問した。彼女は、移り住んで10年、一人暮らしの63歳。50歳代前半といっても通用するだろう。非常に若々しい。ちなみに自動車などは持っておらず、近所の人に乗せていってもらうか、ヒッチハイクをして徒歩圏以上は移動すると言う。
 最初に、家の前で家庭菜園で採取される野菜、果物等を実物と写真で15分ほど説明を受けた。特に印象に残っている点のみを記そう。
 ①自家栽培した有機果物としてオレンジがある。理由は分からないが、このオレンジは時間を経ても表面は固くなるが、腐ることなくジュースとして十分に飲めるものよ!スーパーで購入するオレンジは直ぐ腐ってしまって、短時間しか保存が利かない。
 ②よく鳥に果実を食べられて困らないか?との質問を受ける。確かに鳥に果実を食べられるが、それで困っていると言うことはない。自分自身の分は十分食べたり、確保できており、それ以上の部分を鳥たちが食べている。確保できる果実が少ないものは、自分が半分を食べ、残りの半分を取りに分け与えるような方法を取ると、それ以上はとりも食べない。不思議であるが、今までの経験からこのように言うこともできる。
 ③苺ジャム、イチジクジャム、プルーンジャムを作り、マーケットで販売している。米、オリーブ油等、どうしても自分で作ることのできないものを買うための収入源としている。
 次いで、入口に移り、家の構造の説明がはじまった。デザインは自分自身で行った。お金もなかったので、決して大きく立派な家とはいえないが、機能的にできている。北側から太陽光を取り入れるように(オーストラリアは南半球であることに注意)、大きな窓を置いている(日本の建物にたとえて言えば、紡績や染色工場等で南から太陽光を取り入れるための三角屋根を想定して欲しい)。西側に向かい、入口に向かう道路を配置しているが、これは、冬に日が沈む際に十二分な太陽光と熱を取り入れるためである。遮る物が何もないようにね!夏は、日が当たりすぎると暑くなりすぎるため、太陽が沈む位置に木を植えている。温水は、太陽熱を生かし沸かすタイプと、冬はストーブを使うとその熱でお湯を分かるように仕組を作っている。(鵜飼注:サンシャインコーストのヒンターランドは、山であるため夏は涼しく、日本のようにクーラーとしてエアコンをつける必要はない。)
 いよいよ、バックヤード、家庭菜園に話が進む。同時に、庭を歩きながら、一つずつ大変丁寧にお話をしていただいた。やはり、特に印象に残っている点のみを記そう。
 ①何でもリサイクルできるものはする!隣の家が出したコンクリートの塊から落ち葉他をコンポスト化しミミズを活かし固形キャストと液体キャストを得、肥料としている。
 ②害虫駆除にはニンニクを細かく切り、水につけ、ニンニクエキスを含む水を、アトマイザで噴射する。
 ③マイクロ・クライメイトを家庭菜園に意識的に発生させ、収穫時期をずらす。私たちを取り巻く気候は変化する。それと同じように、葉への日当たりは良いが、根に近い部分(ボトム)が小屋で日が十分に当らないようになっていて冷えているため、小屋がない場合に比べ実のなる時期を遅らせることができる。
 ④ダックを飼育している。食用とするためだ。全てを食べる。例えば、リバーペーストにしたり、血はプリン状にし凍らせ保存する。血は重要な鉄分の補給源だ。
 ⑤家庭菜園は、家と水によって繋がっている。雨が降れば屋根から雨樋を経て貯水タンクに行く。先ずは生活用の貯水タンクにはいり、一杯になったら次の貯水タンクに行く。これが菜園用に用いられるものだ。続いて、菜園用の貯水タンクに入った水は、パイプを伝い、少し離れた(15メートルくらい)鳥小屋に飲み水として供給され、同様に貯水タンクから離れた坂の下のほうの菜園へパイプで給するするように出来ている。
 ⑥斜面の上側に家、下る斜面に菜園を作っている。水が急激に落ちないように木を植え、同時に地形としてくぼ地を作っている。
 ⑦私の土地はまだ半分しか活用できていない。残りの半分は、豚を飼育しようと思っている。理由は、食べ残りがどうしても発生するから、それを飼料として与えることの出来る動物として豚が適切だから。
 ⑧菜園での栽培の方法は、ベロニカが言っていたように、自然のメカニズムに近いように、整然としているわけではなく、雑然として同じ野菜もまちまちな場所に生えていたりするが、非常に元気に育っている。
 最後に、敷地内に別棟の家を建築中で、そこを案内していただいた。外装はほぼ完成、残りは内装と水周りの整備のようだ。家の設計は自分で、建築は知人の大工さんにたのんだという。大工さんと言っても今まで家を自分の力で建てた経験はないため、技能を高める機会として活用された形だ(推測だが、だから破格の安さで作られているのではないかな・・・)。この家も、基本的にリサイクルを前提に考えられている。床材、壁材は廃材利用。タイルも廃材利用。キッチンも隣家が捨てていたものを利用。天井のベニヤは最安値のもの、窓は中古品。将来、十分に動けなくなった時に、この新しい家に移り住み、現在の家を人に貸し、収入を得て生活する計画と言う。
 「現在、貯金はない。しかし、生活の最低限は満たされ、心豊かに生きている。私は、もともと非常に貧しい家庭で生まれ育った。そこから比べれば、今の生活は満足している。」と彼女は語り、終了となった。
4.Dairy Farmを訪問し、搾乳体験。
 乳牛約300頭(年齢でいえば2歳から12歳)、その他目的の牛が約200頭のDairy Farmを訪問した。マレーニのDairy Farmの規模は小さいと聞いていたが、実際目にしてみると非常に大きく感じた。同時に、搾乳を始めるに当っても午後3時からはじめ、終了は暗くなる午後6時ごろまで続く。この作業以外にも行うことがあるとするなら、朝から晩まで非常に長時間の重労働であることが容易に予想できた。
 作業環境は時には悪臭との戦いでもある。牛は自由に糞尿をする。一回でるともう半端な量ではない。搾乳のため集団で列を成して待っている時に、何頭かがあちらこちらで糞尿をするから、悪臭も倍増である。もっとも、悪臭と考えているから悪く捉えるのであり、人間も同じように糞尿をするから同じことだ。臭さの程度から言えば、雑食の人間の方がよほど臭いと思うね!
 小牛が何頭かいた。この1週間で双子の牛が2組生まれたという。雌と雌。牡と牡。この組み合わせは縁起が悪いと言われているそうだ。理由はあまりよくわからないらしい。一般的に双子が生まれる場合、牡と雌の組み合わせが多いそうだ。雌は乳牛として育てるため、親から離し小屋で6週間ほど育てた後、放牧する。2歳から搾乳を開始するらしい。他方、牡は、一週間以内にマーケットで売りに出す。いくらで売れるかは事前には分からず、その当日に何頭持ち込まれるかで変わるらしい。今までの経験から言って、安い時で一頭3ドル、高い時で一頭15ドル。
 へ~、こんな風に搾乳を開始するんだ!?と思ったことを記したい。午後3時近くになると、2人のペアで作業を行うのだが、一人が4輪バイクで牛追いにでかけ、徐々に乳牛が搾乳場所に集まってくる。ある程度集まってきた頃合を見て、もう一人の人が、搾乳機械に続く導入口のゲートを開け、搾乳場所に入るのをじっと待っている。無理に追い立てることはしない。今日は、我々がゲストで来ていて環境が変わったためであろう。30分ほども動かなかった。申し訳ないことをしてしまった。
 さて、ある一頭が突然前に進みだし、搾乳場所に入った。一回にどうだろう約50頭が搾乳できるようだ。飼料を食べながら搾乳される。この飼料が美味しいのだろう。一斉に、我先争うように一頭しか入ることのできないスペースに、2頭が陣取り合戦を始める。首が側壁と他の牛の腹に食い込む。こうなったら、もう引くより仕方がない。この繰り返しである。大変だ。学生達も搾乳体験をした。糞まみれになる学生もいたが、多くは無事終了。機械を乳首にあてるのだが、スポッと入る感覚らしい。
 搾乳体験が終わり、我々は、農場のダム(水の供給源)を見に行った。驚いたことに2つの大きなダムがある。この周囲を歩いて回ってみた。約60分ゆっくり歩いてかかっただろうか。景色もよく、大変清々しかった。
5.皆既月食を見る。
 Dairy Farmのオーナー宅で夕食を一緒に作り、歓談の一時を持った。我々が訪問することになっていたためであろうか、オーナーの義弟夫婦が来ていた。東京で16年間働き、この1月にマレーニに戻り、間もなくパーマカルチャーを実践するためジンピーににある購入した4ヘクタールの土地に引っ越すそうだ。奥様が日本人で、当地で日本人の定住者に会うことはほとんどないため、深い感慨にふけった。さらに、この方々は、昨年のインターンシップで井嶋君が作ったブログや、私が書いたブログの記事を読んでいてくれた。感激極まりない。
 皆既月食が始まった。段々月がかけ、赤い月に変化。その変化に伴い、月明かりが少なくなり、代わりに満天の星空が徐々に姿を現す。待ちに待った満天の星、星、星。天の川もはっきり見え、ただただ沈黙し見上げていた。
 良い一日の終わりとなった。明日からは、学生が2箇所に別れファームの仕事を手伝うことになる。今まで、視察し知識を得たことを、体験を通じ自分のものにして欲しい。

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